笠間市は、茨城県中央部にある自治体です。日本三大稲荷の一つ「笠間稲荷神社」の門前町として発展してきた歴史を持ち、日本を代表する伝統的工芸品「笠間焼」の産地としても知られています。
笠間焼の窯元は個人経営の小規模事業者が多く、原料調達・後継者育成・販売をそれぞれの窯元が個別に担ってきました。また、栗農家が抱える剪定枝の処理負担や野焼きによる煙害も、地域の長年の課題です。
笠間市はこれらの課題に、栗の剪定枝を燃料にしたバイオマスボイラーと、その灰を笠間焼の釉薬として活用する資源循環で向き合おうとしています。
笠間市が脱炭素先行地域になるまでの歩み

笠間市は、令和3年に表明したゼロカーボンシティ宣言を土台に、脱炭素先行地域への選定を複数回にわたり目指してきました。
- 令和3年3月:第2次笠間市環境基本計画を見直し
- 令和3年4月:「ゼロカーボンシティ」を宣言
- 令和4年度〜令和5年度:脱炭素先行地域に3度応募するも不採択が続く
これらの取り組みを経て、令和8年2月13日には環境省の脱炭素先行地域(第7回)に選ばれています。茨城県内ではつくば市に続き2例目の選定となりました。
- 計画の名称
地域資源を活用した地域(笠間焼エリア)の脱炭素化による笠間焼産業の振興~脱炭素で伝統的工芸品を未来へとつなげる~ - 計画の内容
ギャラリーロードエリア・笠間学校給食センターエリア・西池エリア・東池エリアの4エリアを対象に、栗剪定枝バイオマスボイラーの導入や農業用ため池へのフロート式太陽光発電、窯元の再エネ・省エネ設備導入を進め、笠間焼産業の持続可能性向上と脱炭素を同時に目指す取り組みです。
笠間市が主体となって事業を進め、共同提案者である笠間焼協同組合や株式会社常陽銀行など9者が、地域エネルギー会社の運営や資金調達支援を担う体制がとられています。
出典:笠間市が第7回環境省脱炭素先行地域に選定されました
出典:地域資源を活用した地域(笠間焼エリア)の脱炭素化による笠間焼産業の振興
笠間市が進める脱炭素の具体的な取り組み

笠間市の脱炭素まちづくりでは、笠間焼エリアの4地区を対象に、伝統工芸の産業振興に着目した取り組みが進められています。
出典:地域資源を活用した地域(笠間焼エリア)の脱炭素化による笠間焼産業の振興
窯元の再エネ・省エネ導入と担い手育成
笠間焼の窯元は、電気窯や作業場の空調など、小規模ながら電力を多く使う工程を抱えています。
笠間市はこれらの窯元への太陽光発電・省エネ設備の導入を進めるとともに、陶芸家を育成する「修行モデル工房」をZEB化し、空き家を工房として活用する際にも再エネ・省エネのリフォームを施します。
作陶にかかるコストを抑え環境を整えることで、後継者の育成・確保にもつなげる狙いです。
栗剪定枝バイオマスボイラーと釉薬への資源循環
笠間市の主要産業である栗農家は、収穫後に出る大量の剪定枝の処理に長年悩まされてきました。放置すれば病害虫の温床になるほか、野焼き時には煙害の原因にもなります。
笠間市は、剪定枝を燃料とするバイオマスボイラーを学校給食センターに導入し、調理用の熱源として活用します。
農業用ため池へのフロート式太陽光発電の導入
笠間焼エリア内には、維持管理に手間がかかる農業用ため池が点在しています。
笠間市はこのうち2か所に、水面に浮かべる形のフロート式太陽光発電(合計約2,300kW)を設置します。
陸上に太陽光パネルを置く場合と違い、新たな土地の取得が不要です。また、水面を覆うことで蒸発の抑制や水温上昇の緩和を期待でき、ため池の管理負担の軽減にもつながる設計となっています。
笠間市の脱炭素まちづくりまとめ

笠間市の計画は、脱炭素の主役を電力や設備ではなく、笠間焼という伝統産業そのものに据えています。栗の剪定枝は釉薬という原料に変わり、ため池の管理負担は発電収益に変わります。それぞれの取り組みが、脱炭素と地場産業の両方の課題を同時に解決する形で設計されています。
計画名の副題「脱炭素で伝統的工芸品を未来へとつなげる」が示す通り、笠間市にとって脱炭素はゴールではなく、江戸時代中期から続く笠間焼を次の世代につなぐための手段という位置づけです。3度の不採択を経て掴んだ機会を、産業そのものの存続に生かそうとしています。


