与那原町は、沖縄本島南部の東海岸に位置する自治体です。沖縄本島内で最も小さい町ですが、琉球王朝時代から続く伝統行事「与那原大綱曳」を通じて住民同士の結びつきが強いことで知られています。
主要な産業がなく、地域内の経済循環も弱いという課題を抱える中、令和4年11月には環境省の脱炭素先行地域に沖縄県で初めて選定されました。
ドイツの自治体主導エネルギー事業体を参考にした「与那原版シュタットベルケ」を軸に地域でお金を循環させる、与那原町の脱炭素の取り組みを紹介します。
与那原町が脱炭素先行地域になるまでの歩み

与那原町は、平成30年度の市町村内総生産が周辺自治体より低い水準にとどまる中、地域新電力を軸としたエネルギーの地産地消の検討を重ねてきました。
- 令和2年度〜3年度:産官学民連携による「よなばる綱がるプロジェクト」を実施し、戸建住宅35件へのPPAモデル太陽光発電を導入
- 令和4年8月26日:環境省の脱炭素先行地域に計画提案書を提出
これらの取り組みを経て、与那原町は令和4年11月1日に環境省の脱炭素先行地域(第2回)に選ばれています。
- 計画の名称
「みんなで創る地域脱炭素社会と活気あふれる美らまち与那原 ~新しい未来へ綱げて~」 - 計画の内容
マリンタウン東浜エリアと町内公共施設群36施設を対象に、太陽光発電と蓄電池をPPA方式で導入し、「与那原版シュタットベルケ」と呼ぶ独自モデルのもとで地域新電力を軸に電力の地産地消と地域経済循環を目指す取り組みです。
与那原町が主体となって事業を進め、共同提案者であるおきなわパワーHD株式会社やみやまパワーHD株式会社などが再エネ供給・PPA事業の運営を担う体制がとられています。
出典:与那原町の脱炭素化への取り組み
出典:みんなで創る地域脱炭素社会と活気あふれる美らまち与那原
与那原町が進める脱炭素の具体的な取り組み

与那原町では、マリンタウン東浜エリアと公共施設群を対象に、与那原版シュタットベルケを軸とした4つの取り組みが進められています。
PPAによる太陽光発電と蓄電池の全域導入
マリンタウン東浜エリアの住宅・商業施設・公共施設を対象に、PPA方式で太陽光発電と蓄電池の導入を進めています。
戸建て住宅では約290戸を目標に、断熱性能を高めたZEH仕様の住宅も組み合わせて導入する計画です。
「与那原版シュタットベルケ」が担う地域経済循環
ドイツの自治体主導エネルギー事業体「シュタットベルケ」を参考にしたのが「与那原版シュタットベルケ」です。
地方自治体が主な出資者となり、地域の利益や公益性を重視した経営を行う事業です。エネルギー事業などで得た利益を地域サービスに再投資します。
地域新電力が住宅や施設の余剰電力を買い取り、住宅や施設には割安な再エネ電力メニューを提供しながら、その収益を防災・公共交通・健康施策など町の課題解決に還元する体制を目指しています。
エネルギー代金の域外流出を抑え、地域内でお金が循環する構造をつくる狙いがあります。
EVとカーシェアリングで進める運輸部門の脱炭素化
台風の多い沖縄では自動車への依存度が高く、慢性的な渋滞や災害時の燃料確保が課題となっています。
与那原町は公用車や事業用車のEV化を進め、非常時には「動く電源」として避難所等へ電力を供給できる体制を整える計画です。
EVカーシェアリング・電動キックボード・Eサイクルなど多様な移動手段も組み合わせ、自家用車に頼らない暮らし方を後押しします。
波力発電・小型風力発電の実証
与那原町は太陽光発電に加えて、波力発電と小型風力発電の導入にも取り組んでいます。
波力発電は沖縄県久米島町での実証技術を土台に、与那原マリーナへの設置を計画しています。小型風力発電は宮古島市で導入実績がある機種を採用する予定です。
与那原町の脱炭素まちづくりまとめ

与那原町の取り組みは、再エネの導入による脱炭素化と「与那原版シュタットベルケ」による地域経済循環という、2つの課題解決を同時に進めている点に特徴があります。
地域新電力の収益を防災や健康施策へ還元する仕組みは、主要産業を持たない与那原町固有の課題に対応したものです。EVを「動く電源」とした防災力の強化や、久米島町・宮古島市の実証技術を取り入れた波力発電・小型風力発電への挑戦も、この2つの目標を支える取り組みとなっています。
与那原大綱曳で培われてきた住民同士の結びつきが、これらの取り組みへの高い合意形成を後押ししています。与那原町は、脱炭素まちづくりの施策を、沖縄県内で同様の課題を抱える自治体や県外の自治体にも広げていきたいとしています。


