栃木県の北部にある那須塩原市は、平成17年に黒磯市・西那須野町・塩原町が合併してできた自治体です。生乳産出額全国2位を誇る酪農のまちとして知られています。
那須塩原市の酪農家は、飼料価格や燃料価格の高騰による経営負担に直面しています。脱炭素先行地域の対象となる青木地区には、市内酪農家の25%、乳用牛の38%が集中しており、生乳を安定的に供給し続けるための経営改善とレジリエンス強化が急務です。
那須塩原市はこれらの課題に、酪農家への太陽光発電・蓄電池の導入と、仮想同期発電機(VSG)を用いた地域マイクログリッドの構築で向き合っています。
那須塩原市が脱炭素先行地域になるまでの歩み

那須塩原市は、東日本大震災の停電の経験を踏まえ、地域新電力の設立を軸に再生可能エネルギーの活用を進めてきました。
- 令和3年3月:東京電力パワーグリッド株式会社栃木北支社と「ゼロカーボンシティと地方創生に係る包括連携協定」を締結
- 令和3年12月:カーボンニュートラル実現に資する企業向けに「那須塩原市企業立地促進条例」を改定
- 令和4年4月:地域新電力「那須野ヶ原みらい電力株式会社」を設立
- 令和4年8月:那須野ヶ原みらい電力株式会社が地域金融機関等と再生可能エネルギーの利活用に関する連携協定を締結
これらの取り組みを経て、令和4年11月1日には環境省の脱炭素先行地域(第2回)に選ばれています。
- 計画の名称
ミルクタウン那須塩原のチャレンジゼロカーボン~青木地区ゼロカーボン街区構築事業~ - 計画の内容
青木地区全域(約16km²)を対象に、酪農家・住宅・公共施設への太陽光発電と蓄電池の導入や、家畜ふん尿を活用したバイオガス発電、地域マイクログリッドの構築を進め、酪農業の経営改善と地域のレジリエンス強化を同時に目指す取り組みです。
那須塩原市が主体となって事業を進め、共同提案者である那須野ヶ原みらい電力株式会社や東京電力パワーグリッド株式会社栃木北支社が、再エネ電力の供給やマイクログリッドの構築を担う体制がとられています。
出典:脱炭素先行地域
出典:ミルクタウン那須塩原のチャレンジゼロカーボン~青木地区ゼロカーボン街区構築事業~
那須塩原市が進める脱炭素の具体的な取り組み

那須塩原市の脱炭素まちづくりでは、青木地区の酪農家・住宅・公共施設を対象に、酪農業の経営改善と地域のレジリエンス強化に着目した取り組みが進められています。
出典:ミルクタウン那須塩原のチャレンジゼロカーボン~青木地区ゼロカーボン街区構築事業~
酪農家への太陽光発電・蓄電池の導入によるレジリエンス強化
那須塩原市の酪農家では、生乳を冷やし続けるバルククーラーや搾乳に使うミルカーが24時間稼働しており、停電が生乳の廃棄に直結します。
那須塩原市は、対象地域内の酪農家64軒を対象に、PPA方式で太陽光発電と蓄電池の導入を推進中です。
平時は電力コストの削減につながり、系統が停電した非常時にも搾乳や冷却といった酪農の作業を止めずに続けられる体制を目指しています。
家畜ふん尿バイオガス発電と小水力発電による未利用資源の活用
酪農家が集中する対象地域では、1日あたり約1,930トンの家畜ふん尿が発生しています。
農業用水路「那須疏水」に675箇所ある落差工を活用した小水力発電の導入も進めています。太陽光発電だけに頼らず、すでにある資源を組み合わせて電源を確保しようとしている点が特徴です。
VSG蓄電池を用いた地域マイクログリッドの構築
那須塩原市は、対象地域内で太陽光発電・バイオガス発電・小水力発電といった複数の再エネ電源を組み合わせ、大規模な系統停電が起きた際にも地域内で電力供給を続けられる「地域マイクログリッド」の構築を進めています。
仮想同期発電機(VSG)と呼ばれる、国内メーカーとしては初めて製品化された技術が使われています。
タービンを持たない太陽光発電や蓄電池は、単独では電力の周波数を安定させる「慣性力」を持ちません。しかし、VSGが慣性力を人工的に補うことで、火力発電のような大型の発電設備がなくても、再エネだけで地域内の電力供給を維持できます。
脱炭素をブランド価値に変える乳製品のカーボンフリー化
那須塩原市は、脱炭素化した工程で作られた乳製品を「カーボンフリー産品」としてブランド化し、地域活性化の拠点として再整備中の道の駅「明治の森・黒磯」で販売する予定です。
観光客がカーボンフリー産品を購入することで、地域外からの収入を増やしながら、脱炭素の取り組み自体を地域のブランド価値として発信していく狙いがあります。
那須塩原市の脱炭素まちづくりまとめ

那須塩原市の計画で目を引くのは、酪農家一人ひとりに太陽光発電や蓄電池といった具体的な設備を届けていく丁寧さです。64軒の酪農家を個別に訪問し、経営状況や停電対策の実情をヒアリングしながら合意形成を進めており、大規模なインフラ整備とは一線を画しています。
脱炭素を意識することなく行動変容が進む社会を目指し、生乳を軸に脱炭素の取り組みを一体的に進めています。


