北海道の南西端にある奥尻町は、日本海に浮かぶ奥尻島全域を町域とする離島の自治体です。透明度抜群の「奥尻ブルー」の海と豊かなブナの森に囲まれ、ウニやアワビなどの新鮮な海の幸や温泉、美しい夕日が魅力の自然豊かなまちとして知られています。
奥尻町の電力系統は、北海道本土とつながっていない独立系統です。内燃力発電を中心とした電力供給に頼っており、燃料は本島からの海上輸送に依存しています。
地熱・水力・太陽光・風力を組み合わせた「再エネフルメニュー」で、この課題に対処しようとしているのが、奥尻町の脱炭素の取り組みです。
奥尻町が脱炭素先行地域になるまでの歩み

奥尻町は、独立系統ゆえのエネルギー供給リスクとエネルギーコストの高さという課題に向き合う中、地熱と木質バイオマスを中心とした再生可能エネルギーの活用を進めてきました。
- 平成29年7月:株式会社越森石油電器商会が地熱バイナリー発電所(250kW)の運転を開始
- 平成25〜26年:青苗小学校・奥尻小学校に木質バイオマスボイラーを導入
- 令和2年度:浮体式洋上風力発電の導入可能性調査に着手
これらの取り組みを経て、令和4年11月1日に環境省の脱炭素先行地域(第2回)に選ばれています。令和4年12月6日にはゼロカーボンシティを表明しました。
- 計画の名称
再エネフルメニューで実現する「サスティナブル・アイランド奥尻」事業 - 計画の内容
町内全域(自衛隊基地を除く)を対象に、地熱・水力・太陽光・風力による再エネフルメニューを導入し、既設の内燃力発電の出力を抑えながら、電力の地産地消と災害に強いまちづくりを目指す取り組みです。 - 奥尻町が主体となって事業を進め、共同提案者である株式会社越森石油電器商会やエル電株式会社が、地熱発電の運営や配電網の保守管理を担う体制がとられています。
出典:環境省脱炭素先行地域の選定について
出典:再エネフルメニューで実現する「サスティナブル・アイランド奥尻」事業
奥尻町が進める脱炭素の具体的な取り組み

奥尻町の脱炭素まちづくりでは、町内全域を対象に、地熱・水力・太陽光・風力を組み合わせた取り組みが進められています。
出典:再エネフルメニューで実現する「サスティナブル・アイランド奥尻」事業
地熱バイナリー発電施設の増設
奥尻町の地熱発電は、奥尻島の火山地形が生んだ、他の再エネにはない強みです。
平成29年に株式会社越森石油電器商会が始めた地熱バイナリー発電施設は、国内でも珍しい民間主導の事業として実績を積んでおり、今回の脱炭素先行地域の計画でもこの実績が高く評価されています。
太陽光や風力と違って天候に左右されず、地中の熱を使うため一年を通じて安定した発電量を見込める点も、地熱発電のメリットです。台風や悪天候が続いても発電量が落ちない電源は、独立系統で電力を自給しなければならない奥尻町にとって、電力供給の安定に直結します。
奥尻町の脱炭素まちづくりでは、地熱バイナリー発電施設を現在の250kWから1,000kW規模まで拡大する予定です。
太陽光発電・陸上風力発電・水力発電の導入
奥尻地区・青苗地区の町有地には、合計2,155kWの太陽光発電を新設します。強風に耐えられる可倒式・自立式の陸上風力発電(合計1,470kW)も導入し、日本海に面した風況の良さを生かします。
これらの再エネ発電による電力は、北海道電力ネットワークが運営する島内の配電網を通じて、住宅や民間事業所に供給されます。
公共施設への太陽光・蓄電池設置で災害時の電力を確保
奥尻島は、平成5年7月12日の北海道南西沖地震で、島の歴史に残る甚大な被害を受けました。地震発生からわずか数分で津波が島を襲い、特に青苗地区では津波と大規模な火災が同時に発生し、集落の大部分が焼失しています。
この災害による死者・行方不明者は230名近くにのぼり、当時の奥尻町の人口を考えれば、島全体が大きな喪失を経験した出来事でした。防潮堤の整備や住宅地のかさ上げなど、長年にわたる復興事業を経て、現在の島の姿があります。
奥尻町はこの経験を踏まえ、奥尻地区・青苗地区の主要な公共施設8箇所に太陽光発電と蓄電池を設置し、それぞれの施設が電力を自家消費できる体制を整備中です。
独立系統である奥尻島では、災害等で内燃力発電が停止すれば島全体が停電するリスクがありますが、公共施設ごとに電力を自給できれば、避難所や役場機能を災害直後から維持しやすくなります。
奥尻町の脱炭素まちづくりまとめ

奥尻町の脱炭素計画で目を引くのは、地熱バイナリー発電という実績ある電源を増設という形で計画の柱に据えている点です。地元企業がすでに手がけてきた事業を拡張することで、新規事業に比べて事業性の見通しを立てやすくしています。
本土と電力系統がつながっていないという制約は、裏を返せば島内で発電から供給までを完結させやすい条件でもあります。奥尻町はこの制約を、地熱・水力・太陽光・風力を組み合わせた「フルメニュー」化によって強みに変えようとしています。

