青森県の津軽半島にある中泊町は、平成17年に旧中里町と旧小泊村が合併して誕生した、間に五所川原市を挟む飛び地合併の自治体です。農業が盛んな中里地域と、漁業・観光が盛んな小泊地域という、異なる性格の2つの地域からなっています。
第4種漁港「小泊漁港」を中心に漁業が営まれている小泊地域では、次のような課題を抱えています。
- 燃油や漁業資材の高騰、魚価の低迷が漁家経済を圧迫
- 担い手の高齢化や就業者の減少が進行
- 小泊漁港周辺エリアの持続可能性の向上が急務
中泊町はこれらの課題に、地域エネルギー会社による再生可能エネルギーの活用を組み合わせて向き合おうとしています。
中泊町が脱炭素先行地域になるまでの歩み

中泊町は、漁業所得の減少や担い手不足といった課題に向き合う中で、再生可能エネルギーを軸とした地域づくりの取り組みを進めてきました。
- 令和5年1月:「中泊町地域脱炭素実現に向けた再エネ導入戦略」を策定
- 令和6年3月:「中泊町ゼロカーボンシティ宣言」を表明し、町内外の18機関と「中泊町脱炭素まちづくり推進連携協定」を締結
- 令和6年12月:地域エネルギー会社「中泊リージョナルパワー株式会社」を設立
- 令和7年9月:中泊リージョナルパワー株式会社が小売電気事業者の登録を完了
これらの取り組みを経て、令和8年2月13日には環境省の脱炭素先行地域(第7回)に選ばれています。
- 計画の名称
風育む町の地域エネルギー会社を核とした「NAKAZERO共創アクション」~漁業環境のスマート化・高度化による脱炭素型漁業振興モデルの確立~ - 計画の内容
小泊地区の5集落(入舟・浜町・上町・新町2・温泉町)を対象に、中型風力発電と太陽光発電を導入し、地域エネルギー会社を通じて電力を供給するとともに、その収益を漁業高度化に活用する取り組みです。
中泊町が主体となって事業を進め、共同提案者である青森県や中泊リージョナルパワー株式会社など7者が、電力供給や漁業高度化、住民との合意形成を担う体制がとられています。
出典:中泊町ゼロカーボンシティ宣言及び中泊町脱炭素まちづくり推進連携協定の締結について
出典:風育む町の地域エネルギー会社を核とした「NAKAZERO共創アクション」
中泊町が進める脱炭素の具体的な取り組み

中泊町の脱炭素まちづくりでは、小泊地区の5集落を対象に、地域エネルギー会社を核とした取り組みが進められています。
再エネ発電の導入と地域エネルギー会社による電力供給
中泊町の脱炭素化に向けて、小泊地区の旧小泊第1牧場・旧冬部牧場に中型風力発電(0.33MW×3基)を、小泊中学校及び工業団地跡地に太陽光発電(0.9MW)を導入します。
中泊リージョナルパワー株式会社は、すでに町内の十三湖風力発電所から電力を購入し、令和7年には公共施設への供給を開始しています。令和8年度以降は、戸建住宅・民間施設への供給を順次拡大していく予定です。
陸上養殖の高度化で「獲る漁業から育てる漁業へ」
小泊地区では平成30年からマツカワガレイの陸上養殖の実証試験が行われてきましたが、水温管理などのコストがかさみ、年間の生産量は約500尾にとどまっています。
完全閉鎖循環型養殖システム(RAS)や自動給餌機を導入し、地域エネルギー会社から供給される再エネ電力を活用することで、生産コストを抑えながら生産規模を7,000尾まで拡大する計画です。
漁獲量が減少する中、獲る漁業から育てる漁業への転換を進め、漁業経営の安定化につなげる狙いがあります。
未利用魚の資源化とEV冷蔵冷凍車による流通の脱炭素化
サイズや鮮度の問題で市場に出せない未利用魚や、加工の過程で生じる残さは、これまで十分に活用されず廃棄されていました。
これらを飼料化する設備を導入し、養殖魚の餌や町内外への「地産飼料」として販売する資源循環を進めます。
兼任集落支援員による再エネ電気切り替えの後押し
中泊町は、集落ごとの実情に詳しい住民が行政との橋渡し役を担う「兼任集落支援員」を、41地区のうち33地区に配置しています。
脱炭素先行地域の対象となる5集落でも、兼任集落支援員が住民との対話や説明会を通じて、地域エネルギー会社が提供する再エネ電気への切り替えを後押しする計画です。
再エネ事業の収益を地域に還元する「地域裨益型再エネ共創条例」と「地域裨益基金条例」を制定し、住民の理解と協力を得ながら脱炭素化を進める体制を整えています。
中泊町の脱炭素まちづくりまとめ

中泊町の脱炭素先行地域の取り組みでは、小泊地区の5集落に対象が絞られています。農業が盛んな中里地域は今回の対象に含まれていませんが、計画では地域エネルギー会社による電力供給や再エネ裨益の循環を、将来的に中里地域を含む町全域へ広げていく方針が示されています。
漁業という基幹産業の課題解決を、再エネの収益還元と組み合わせている点も特徴的です。「獲る漁業から育てる漁業へ」という転換は、脱炭素の取り組みである以前に、担い手不足に直面する漁村がどう生き残るかという課題そのものであり、中泊町はこの2つを切り離さずに計画を組み立てています。


