宮古市は、岩手県沿岸部の中央に位置する自治体です。平成17年に旧宮古市・旧田老町・旧新里村が合併し、平成22年には旧川井村も加わり、県内最大の面積を持つ広域合併のまちとなりました。
山林が中心の川井地区、中山間地の新里地区、漁業が盛んな田老地区、市街地の宮古地区と、地域ごとに暮らしや産業の姿が大きく異なる中、宮古市は旧市町村の特性を生かした小規模分散型の電力網を築き、地域同士が支え合う体制づくりを進めています。
宮古市の脱炭素化の中核にあるのが、再エネ事業で得た収益を地域課題の解決に充てる「宮古市版シュタットベルケ」です。令和4年には、環境省の脱炭素先行地域に選定されています。
宮古市が脱炭素先行地域になるまでの歩み

宮古市は、東日本大震災からの復興を機に、再生可能エネルギーの地産地消を軸としたまちづくりに取り組んできました。
- 平成25年度〜平成29年度:復興重点プロジェクトとして「宮古市スマートコミュニティ構築事業」を実施
- 平成27年12月:地域新電力「宮古新電力株式会社」を設立
- 令和2年11月:「宮古市2050年ゼロカーボンシティ」を表明
- 令和4年3月:「宮古市再生可能エネルギー推進計画」を策定
これらの取り組みを経て、令和4年11月1日には環境省の脱炭素先行地域(第2回)に選ばれています。
- 計画の名称
広域合併したまちの脱炭素地域づくり~宮古市版シュタットベルケから始まる地域内経済の好循環の拡大を目指して~ - 計画の内容
中心市街地・田老地区の2地区を対象に、太陽光発電・中型風力発電を導入し、地域新電力を通じて電力を供給する取り組みです。その収益は「宮古市版シュタットベルケ」を通じて地域課題の解決に還元されます。
宮古市が主体となって事業を進め、共同提案者である東北大学や宮古市脱炭素地域づくり協議会が、専門的な助言や合意形成の支援を担う体制がとられています。
出典:脱炭素先行地域選定証授与式(第2回)
出典:広域合併したまちの脱炭素地域づくり
宮古市が進める脱炭素の具体的な取り組み

宮古市の脱炭素まちづくりでは、中心市街地と田老地区の2地区を対象に、地域新電力を軸とした取り組みが進められています。
地域新電力を通じたエネルギーの地産地消
田老地区の防災集団移転元地など、震災の高台移転で生まれた未利用地に、夜間連系太陽光発電(約3,000kW)と小規模分散型太陽光発電(約6,850kW)を導入します。
日中に発電した電力を蓄電池に貯め、夜間に既存の接続点を使って系統に流す「夜間連系」という手法を用いることで、系統連系の制約が大きい地域でも新たな再エネ電源を確保しています。
ここで発電した電力は、地域新電力「宮古新電力株式会社」を通じて、田老地区と中心市街地に供給されます。
「宮古市版シュタットベルケ」が担う地域経済循環
ドイツの自治体主導エネルギー事業体「シュタットベルケ」を参考にしたのが「宮古市版シュタットベルケ」です。
地方自治体が主な出資者となり、地域の利益や公益性を重視した経営を行う事業です。エネルギー事業などで得た利益を地域サービスに再投資します。
宮古市は、宮古発電合同会社や宮古新電力株式会社といった再エネ関連事業に自ら資本参加し、令和3年度には約1.44億円を出資して約1,400万円の収益を再エネ導入の再投資に充てました。
今後はこの基金の規模を拡大し、グリーンスローモビリティの導入や環境教育など、エネルギー分野の外にある地域課題の解決にも再エネ収益を回していく方針です。
中型風力発電の導入によるベースロード電源の確保
宮古新電力の令和3年度の再エネ比率は最大でも18.9%にとどまり、天候に左右される太陽光発電に供給の大半を頼ってきました。
宮古市は対象地域外の田代地区に中型風力発電(500kW)を導入し、天候に左右されにくいベースロード電源として位置づけています。
公共施設や住宅への太陽光発電・蓄電池導入によるレジリエンス強化
中心市街地と田老地区は、いずれも東日本大震災で津波被害を受けた地域です。市役所や消防署などの公共施設に太陽光発電や蓄電池を導入し、災害時にも電力を確保できる体制を整えます。
戸建住宅や事業所にも太陽光発電・蓄電池の導入を支援し、令和6年度からは宮古新電力が提供する「太陽光+蓄電池+EMS」のセットプランへの切り替えを促進します。
宮古市の脱炭素まちづくりまとめ

宮古市の脱炭素の取り組みが他の自治体と異なるのは、広域合併という制約そのものを出発点にしている点です。
川井地区・新里地区・田老地区・宮古地区という性格の異なる4地区を無理に一つの型にはめず、まずは震災復興で再整備が進んだ田老地区と、電力需要が集中する中心市街地から着手し、成果を見ながら残る2地区へ広げていく段階的な設計になっています。
「宮古市版シュタットベルケ」は、この段階的な取り組みを長期的に支える土台です。エネルギー事業から得た収益を交通や教育といったエネルギー以外の分野にも回すことで、人口減少が進む広大な市域でも地域課題への対応を続けられる体制を目指しています。

