山梨県甲斐市は、平成16年に竜王町・敷島町・双葉町の合併で誕生した自治体です。中央自動車道の双葉サービスエリアやJR中央本線の駅を擁する交通の要衝として発展してきました。市内には3つのワイナリーがあるほか、全国トップクラスの日照時間にも恵まれています。
一方、コロナ禍以降、ワイナリーの観光客の割合は年々落ち込んでおり、間伐材や剪定枝などの木質バイオマス資源も十分に活用されないまま放置されてきました。
甲斐市はこの課題に、「隗(甲斐)より始めよ」をスローガンに、人と資源の循環を軸とした脱炭素の取り組みで向き合っています。
甲斐市では、2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ宣言」を行うとともに、環境省の脱炭素先行地域に選定され、地域特性を生かした脱炭素化の取組を進めています。
脱炭素先行地域の取組として、公共施設や民間施設への脱炭素化設備導入や、脱炭素を切り口とした観光メニューの検討、公共施設の電力を市内の木質バイオマス発電所で発電された再エネ由来の電力へ切り替えを進めているほか、令和8年度からは、一般住宅を対象とした脱炭素化設備導入や再生可能エネルギー100%電力への切替に対する補助制度を開始しています。
甲斐市が脱炭素先行地域になるまでの歩み

甲斐市は、豊かな自然資源を地域経済につなげる取り組みを重ね、脱炭素まちづくりの土台を築いてきました。
- 平成25年3月:甲斐市バイオマス活用推進計画を策定
- 平成27年7月:農林水産省のバイオマス産業都市に選定
- 令和2年7月:ゼロカーボンシティ宣言を行う
- 令和3年7月:甲斐双葉バイオマス発電事業者と基本協定を締結
- 令和4年8月:「甲斐市脱炭素推進本部」を設立
これらの取り組みを経て、令和5年4月28日には環境省の脱炭素先行地域(第3回)に選ばれています。
- 計画の名称
“隗(甲斐)より始めよ”人と資源の循環モデル ゼロカーボンロードで「めぐる」自然とワイナリー - 計画の内容
ワイナリーゾーン・公園ゾーン・モデル事業取組ゾーンの3ゾーン7エリアと、これらをつなぐ「ゼロカーボンロード」を対象に、太陽光発電や木質バイオマス発電の導入を進め、観光と地域経済の活性化を同時に目指す取り組みです。
甲斐市が主体となって事業を進め、共同提案者である東京電力パワーグリッド株式会社山梨総支社が系統連系等の支援を、グリーン・サーマル株式会社が木質バイオマス発電所の運営を担う体制がとられています。
出典:甲斐市が脱炭素先行地域に選定されました
出典:“隗(甲斐)より始めよ”人と資源の循環モデル ゼロカーボンロードで「めぐる」自然とワイナリー
甲斐市が進める脱炭素の具体的な取り組み

甲斐市の脱炭素まちづくりでは、ワイナリー観光の低迷や木質バイオマス資源の未活用、太陽光発電の乱開発といった地域課題に、ゼロカーボンロードと資源循環の仕組みで対応する取り組みが進められています。
ワイナリーと観光拠点をめぐる「ゼロカーボンロード」の整備

EVカーシェア車両と市マスコットキャラクター「やはたいぬ」
甲斐市は、双葉サービスエリアを起点に、市内のワイナリー・温泉・農産物直売所・ゼロカーボン公園をめぐる周遊ルート「ゼロカーボンロード」を整備します。
沿線にはEV急速充電器・普通充電器を設け、充電中に観光や買い物を楽しめる環境を整えます。また、公用車やコミュニティバスのEV化や、EVカーシェア事業なども進めます。
甲斐双葉バイオマス発電所を核とした資源循環
甲斐双葉バイオマス発電所は、ワイナリーから出るぶどうの剪定枝や林業由来の間伐材・林地残材を燃料として活用する施設です。
これまで一部しか活用されず、焚き火の横行という別の課題も生んでいた剪定枝は、燃料化に加えて炭化し土壌に貯留する「4パーミル・イニシアチブ」の取り組みにも回されます。
太陽光発電設備の乱開発を防ぐ県協調の条例制定
日照時間に恵まれている甲斐市では、太陽光発電の導入が進んできた一方、防災施設の未整備や森林伐採など乱開発に伴う問題も表面化してきました。
甲斐市はこの課題に対し、太陽光発電設備の適切な保守・管理・廃棄を義務付ける条例を、山梨県と協調して制定する方針です。地元企業による維持管理・廃棄を促し、地域経済循環にもつなげます。
さいたま市との地域間連携による環境価値の融通
甲斐市は、木質バイオマス発電由来の環境価値を、脱炭素先行地域の先輩にあたるさいたま市に提供する連携を進めています。
さいたま市はこの環境価値を市内の脱炭素化に活用し、見返りとして甲斐市の観光をさいたま市民にPRする役割を担います。単独の自治体では完結しない、都市間連携による脱炭素モデルです。
甲斐市の脱炭素まちづくりまとめ

甲斐市の脱炭素先行地域の取り組みでは、脱炭素をきっかけに、通過されがちだった観光資源と、活用されてこなかった森林資源の両方に光を当てています。
ゼロカーボンロードが人の流れをつくり、バイオマス発電が資源の流れをつくることで、「隗(甲斐)より始めよ」というスローガンの通り、県内の他地域や連携先のさいたま市への波及を見据えた取り組みが進められています。

