釜石市は、岩手県南東部の三陸復興国立公園にある、近代製鉄発祥のまちです。甚大な津波被害を受けた東日本大震災からの復興過程で、「釜石オープン・フィールド・ミュージアム」という観光構想を築き、サステナブルツーリズムを実践してきました。
市全体を一つの博物館に見立て、震災の教訓や地域固有の自然・歴史・文化・生業を、地域の協力のもと来訪者に直接体験してもらう取り組みです。
釜石オープン・フィールド・ミュージアムを軸としたサステナブルツーリズムは、国内外で高く評価されています。世界の持続可能な観光地100選に平成30年から7年連続で選出されたほか、令和6年にはグリーン・デスティネーションズ・アワード「ゴールド賞」を国内で初めて受賞しました。
釜石市はこの観光の実績を土台に、再エネ導入や林業・漁業と連携した脱炭素の取り組み、企業誘致による人材育成を一体的に進める「釜石版サステナブルツーリズム」を打ち出しています。
出典:「世界持続可能な観光地100選」への選出と「グリーン・デスティネーションズ・アワード ゴールド賞」受賞のお知らせ
釜石市が脱炭素先行地域になるまでの歩み

釜石市は、震災復興で培った官民連携の基盤を土台に、環境未来都市の指定をきっかけとして脱炭素の取り組みを広げてきました。
- 平成24年度:内閣府「環境未来都市」に選定
- 令和3年10月:2050年までにCO₂排出実質ゼロを目指すことを表明
- 令和5年10月:「第二次釜石市環境基本計画」を策定
- 令和6年5月:デコ活に取り組むことを宣言
これらの取り組みを経て、令和6年9月27日には環境省の脱炭素先行地域(第5回)に選ばれています。
- 計画の名称
「釜石版サステナブルツーリズム」がつなぐ地域脱炭素プロジェクト - 計画の内容
中心市街地エリアと鵜住居エリアの2エリアを対象に、太陽光発電の導入や林業・漁業と連携した脱炭素の取り組みを進め、サステナブルツーリズムの実績を生かして地域経済循環と地方創生を目指す取り組みです。
釜石市が主体となって事業を進め、共同提案者である株式会社かまいしDMCや日本製鉄株式会社など29団体が、観光コンテンツ化・再エネ発電・地域課題解決を担う体制がとられています。
出典:釜石市が環境省の脱炭素先行地域に選定されました
出典:「釜石版サステナブルツーリズム」がつなぐ地域脱炭素プロジェクト
釜石市が進める脱炭素の具体的な取り組み

釜石市の脱炭素まちづくりでは、中心市街地エリアと鵜住居エリアを対象に、太陽光発電や林業・漁業と連携した脱炭素の取り組みを、サステナブルツーリズムの実績を生かして観光や地域経済にもつなげる形で進められています。
出典:「釜石版サステナブルツーリズム」がつなぐ地域脱炭素プロジェクト
鵜住居エリアの太陽光発電で中心市街地に電力を供給
震災復興のかさ上げ地である鵜住居エリアの農工団地跡地に、地域共生型太陽光発電(3.14MW)を導入します。
この一帯には震災復興のシンボル「片岸公園(みのすけ沼)」が隣接し、絶滅危惧種を含む生物が生息しているため、発電事業者は環境保全団体と連携して生態系への影響を調査しながら整備を進め、発電収益の一部を保全活動に還元する計画です。
太陽光発電の適地が少ない中心市街地には、鵜住居エリアで発電した電力を送り、住宅・商業施設・公共施設の脱炭素化につなげます。
林福連携による木質バイオマス熱の活用
釜石地方森林組合と福祉団体「ゴジョる」が連携し、森林整備で生じる未利用材を燃料に、公共施設や福祉施設向けの薪ストーブを導入します。
鉄鋼スラグを活用した藻場再生とブルーカーボンの創出
釜石湾では、水温上昇などを背景に海藻が育たなくなる「磯焼け」が進んでいます。
日本製鉄が開発した鉄鋼スラグ製品「ビバリーユニット」を使い、地元漁協と連携して藻場の再生に取り組みます。
再生した藻場が吸収するCO₂を「ブルーカーボンクレジット」として認証・販売し、その収益を継続的な藻場保全の財源に充てる予定です。
脱炭素を組み込んだ企業向けワーケーション施設の整備
釜石市は、企業の研修や人材育成の場として活用できるワーケーション施設を新たに整備します。
みちのく潮風トレイルや世界遺産「橋野鉄鉱山」を巡る観光客向けにレンタルEVバイクを導入し、移動そのものの脱炭素化も進めます。
釜石市の脱炭素まちづくりまとめ

釜石市の脱炭素まちづくりの計画では、脱炭素を観光コンテンツそのものに組み込んでいます。震災からの復興で培った「地域を丸ごと博物館にする」という発想を、脱炭素の分野にもそのまま応用した形です。
林業・漁業・製鉄業といった基幹産業を一つずつ脱炭素と結びつけながら、観光を通じてその成果を地域外に伝えています。釜石市の計画全体を貫いているのは、単にCO₂排出量を減らすのではなく、まちの魅力そのものを底上げしようとする姿勢です。


