岩手県の中央部西寄りにある紫波町は、盛岡市と花巻市に挟まれた自治体です。「オガールプロジェクト」をはじめとした公民連携によるまちづくりで、全国的に注目を集めています。町内最大の観光施設「ラ・フランス温泉館」も有名です。
JR紫波中央駅前の町有地を活用し、図書館・産直施設・バレーボール専用体育館などを、行政主導ではなく民間主導で整備・運営する公民連携のまちづくり事業です。
紫波町は財政の悪化により駅前の町有地開発計画が長年凍結された状況を打開するため、行政が主体になりがちな公共施設整備を、あえて「補助金に頼らず、民間が採算を取りながら運営する」方式で進めました。町は土地を提供し、施設整備・運営は民間事業者が担う形で、テナント収入や利用料で事業として成立させています。
農業の担い手不足や生ごみ処理体制の見直しといった課題に対し、生ごみや廃棄リンゴといった地域の廃棄物をバイオガス発電の原料に変えたり、温泉施設に木質バイオマス熱電併給設備を導入したりするなど、資源循環を軸とした脱炭素化の取り組みを進めています。
紫波町が脱炭素先行地域になるまでの歩み

紫波町は、循環型社会の実現を早くから目指し、資源循環を軸としたまちづくりを進めてきました。
- 平成13年:「紫波町循環型まちづくり条例」を制定
平成24年度:木質チップボイラーによる地域熱供給施設「紫波中央駅前エネルギーステーション」を整備
令和4年7月:「紫波太陽エネルギー株式会社」を設立
令和4年12月:住民を対象とした脱炭素先行地域の説明会を開催
これらの取り組みを経て、令和5年4月28日には環境省の脱炭素先行地域(第3回)に選ばれています。重点選定モデル「施策間連携」「地域間連携」「地域版GX」の3つにも選定されました。
- 計画の名称
みくまるっと脱炭素化モデル事業 - 計画の内容
水分地区・新山地区を中心とした4エリアを対象に、生ごみ等を原料としたメタン発酵バイオガス発電の導入や、ラ・フランス温泉館への木質バイオマス熱電併給設備・自営線マイクログリッドの構築を進め、地域資源循環と防災力強化を両立させる取り組みです。
- 施策間連携:断熱改修と農業振興を脱炭素の交付金と組み合わせて一体的に推進
- 地域間連携:設備の共同購入や木質チップの供給支援などで岩手県宮古市と協力
- 地域版GX:ラ・フランス温泉館周辺に自営線マイクログリッドを構築し地域エネルギーを管理
出典:紫波町が環境省の脱炭素先行地域に選定されました
出典:みくまるっと脱炭素化モデル事業
紫波町が進める脱炭素の具体的な取り組み

紫波町の脱炭素まちづくりでは、水分地区・新山地区を中心とした4エリアを対象に、地域の廃棄物やラ・フランス温泉館の熱需要を生かした取り組みが進められています。
生ごみとバイオガス発電が生む資源循環
紫波町における循環型まちづくりの拠点施設「えこ3センター」は、事業系生ごみの堆肥化を担っていました。
脱炭素先行地域事業では、えこ3センターにメタン発酵バイオガス発電設備(40kW)を新たに導入します。分別収集の対象外だった町東西地域の家庭系生ごみに加え、鳥獣被害の一因となっていた廃棄リンゴや浄化槽の汚泥、酒蔵から出る酒粕もバイオガスの原料に加えます。
発酵後に残る消化液は、町が作付転換を推奨する「子実用トウモロコシ」の肥料として農地に還元し、生ごみ処理・農業振興・鳥獣被害対策といった地域課題の解決を図ります。
ラ・フランス温泉館の自営線マイクログリッドで防災力を強化
町内最大の観光施設「ラ・フランス温泉館」は、燃料価格の高騰を受け、令和5年の計画提案時点で電気料金が年間約957万円上昇する見通しが示されるなど、経営面の課題を抱えていました。
これらを自営線で結んだ「自営線マイクログリッド」を構築することで、電力・熱の両面でコストを削減しながら、広域避難所に指定されているラ・フランス温泉館の災害時の電力確保にもつなげます。
戸建住宅・民間施設への太陽光発電導入と「紫波型断熱改修」
水分地区・新山地区の戸建住宅622戸と民間施設27施設を対象に、PPA方式による太陽光発電・蓄電池の導入を進めます。
住宅には、内閣府の地方創生推進交付金を活用した「紫波型断熱改修」も提供し、町内工務店と連携した独自メニューで省エネ化を後押しする予定です。
紫波町の脱炭素まちづくりまとめ

紫波町の脱炭素まちづくりの計画には、「新しく作る」よりも「すでにあるものを結びつける」という発想が一貫しています。
生ごみは元々あった廃棄物、ラ・フランス温泉館は元々あった観光施設、断熱改修や公民連携の手法もオガールプロジェクトで培ってきたものです。脱炭素先行地域の枠組みは、これらを再エネという軸でつなぎ直す機会になっています。
紫波町は、この先の姿として「自然が豊かで、思いやりにあふれた住民が健康で幸福に暮らすまち」を掲げています。オガールプロジェクトで注目を集めてきた紫波町が次に見せようとしているのは、公民連携の手法を脱炭素という分野にまで広げたもう一つのモデルです。


