茨城県南西部にあるつくば市は、筑波研究学園都市を擁する自治体です。人口は約27万人(令和8年8月時点)、市区部の人口増加率は全国1位を記録しています。
一方で、つくば駅を中心とする中心市街地には、「大学卒業時に東京圏へ転出する若者の多さ」「研究成果が事業化されにくいこと」「郊外の大型商業施設に押されるにぎわい不足」という3つの課題があります。
つくば市の脱炭素化の柱は、筑波研究学園都市の建設時に整備された既存の共同溝を電力の自営線として転用する「マイクログリッド」です。安価でクリーンな電力・熱を駅周辺に供給し、スタートアップが立地条件として重視する賃料・光熱費の安さと脱炭素対応を満たすオフィス環境を整えます。
研究成果の事業化や若者の就職先確保、にぎわいの回復という3つの課題解決を、企業の誘致を起点に目指していく取り組みです。
出典:つくば市
つくば市が脱炭素先行地域になるまでの歩み

つくば市は、環境モデル都市やSDGs未来都市への選定を重ねながら、脱炭素の取り組みを進めてきました。
- 平成24年度:温室効果ガスの大幅削減に挑戦する「環境モデル都市」に選定
- 平成30年6月:内閣府「SDGs未来都市」に選定
- 令和4年2月:「つくば市ゼロカーボンシティ宣言」を表明
- 令和4年4月:「スーパーシティ型国家戦略特別区域」として指定される
これらの取り組みを経て、令和5年11月7日には環境省の脱炭素先行地域(第4回)に選ばれています。茨城県内では初めての選定でした。
- 計画の名称
脱炭素がもたらすスーパーシティの加速化とスタートアップ創出・企業誘致による中心市街地の活性化 - 計画の内容
TXつくば駅を中心とした半径500m圏内を対象に、既存の共同溝を活用した自営線マイクログリッドの構築や、魚油を燃料とするバイオディーゼル発電の導入、葉刈芝・剪定枝のバイオマス燃料化を進め、中心市街地の脱炭素化とスタートアップ創出・企業誘致を同時に目指す取り組みです。
つくば市が主体となって事業を進め、共同提案者であるミライデザインパワー株式会社や中部電力ミライズ株式会社など5者が、マイクログリッドの構築や電源の運営を担う体制がとられています。
出典:脱炭素先行地域
出典:脱炭素がもたらすスーパーシティの加速化とスタートアップ創出・企業誘致による中心市街地の活性化
つくば市が進める脱炭素の具体的な取り組み

つくば市の脱炭素まちづくりでは、TXつくば駅を中心とした中心市街地エリアを対象に、既存インフラの転用と地域資源の活用に着目した取り組みが進められています。
出典:脱炭素がもたらすスーパーシティの加速化とスタートアップ創出・企業誘致による中心市街地の活性化
既存の共同溝を活用した自営線マイクログリッドの構築
筑波研究学園都市が昭和55年頃に整備した地域冷暖房用の共同溝には、現在も蒸気や冷水の配管が通っています。
新たに地面を掘削する必要がないため初期費用を抑えられるうえ、商用系統が停電した際にも電力供給を継続できるレジリエンス強化にもつながります。
魚油バイオディーゼル発電と廃棄物エネルギーの活用
マイクログリッド内の電源には、市内の水産加工会社「株式会社ニッスイつくば工場」で製造工程後に余る魚油を活用します。
ニッスイつくば工場はこれまで使い切れない魚油を市外の業者に売却していましたが、つくば市はこの魚油を燃料にしたバイオディーゼル発電機(510kW)を新設し、CO₂フリー電気を生み出します。
市のごみ焼却施設で発電した電力の余剰分もマイクログリッド内外の公共施設に供給し、既存の廃棄物発電を最大限活用します。
芝の刈り草・街路樹の剪定枝をバイオマス燃料に
つくば市は国内の芝生生産量の約半数を担う産地であり、栽培過程で出る「葉刈芝」(年間約84トン)の処理が課題になってきました。総延長約3,700kmに及ぶ市道の街路樹や公園から出る「剪定枝」(年間約4,700トン)も、大半はこれまで野焼きや焼却処分に頼っていました。
脱炭素街づくりでは、芝の刈り草や街路樹の剪定枝を廃棄物処理施設の焼却炉の排熱で乾燥させて燃料化し、ごみ焼却発電の燃料に加えます。プラスチックごみの分別が進むことで、低下しがちな焼却炉の発熱量を補う役割も期待されています。
グリーン水素混焼CGSと太陽光発電・小型EVの導入
つくば市は、マイクログリッド内にグリーン水素を混焼できるコージェネレーションシステム(CGS)を新設し、発電した電気と排熱による蒸気を利用施設に供給します。
EV充電器の利用には地域通貨によるポイントを付与し、電力需要の調整にもつなげます。
つくば市の脱炭素まちづくりまとめ

つくば市の計画では、ゼロから新しい設備を作るのではなく、すでにあるものの使い道を変えることに重きを置いています。地域冷暖房の共同溝は電力の自営線に、余った魚油はディーゼル発電の燃料に、焼却するしかなかった芝や剪定枝はバイオマス燃料に変わります。
つくば市はこの計画を通じて「全員参加でつくる低炭素かつレジリエントなスマートシティ」を2030年度までに目指す姿として掲げています。筑波研究学園都市が積み重ねてきた研究・技術の蓄積を、脱炭素という新しい切り口で中心市街地の活性化に結びつけようとする挑戦です。

